
そう、分かってはいるのです。
誰からも好かれる人なんていないと。誰からも嫌われないで生きていくなんて難しいと。
それでもやっぱり、できるだけ多くの人と上手くやりたいし、「なんて言われるかなあ」とか「後ろ指さされないかなあ」なんて気せずにはいられない自分も、いつまでもそこにいるんです。
「あなたには、あなたのことを分かってくれる人がいる」「あなたを理解して、応援してくれる人のことだけ考えていたらいい」
そんな風に誰が何度言い聞かせてくれたって、ぬぐいきれない何か。
「そんなこと分かっているけど、でも、そうでない人のことも気になる…」と思ってしまう、
精神論だけじゃなくて、少しでも論理的に説明してくれたらちょっとは納得できるかもしれないというそんなあなたに
今日はこの人の言葉を紹介したいと思います。
Seth Godin(セス・ゴーディン)。
アメリカの起業家であり著作家で、マーケティングに関するベストセラーを何冊も出版しています。毎日欠かさずブログを更新していることでも有名です。
マーケティングのセミナーで講師としても引っ張りだこのSeth。そんな彼が、これから商品やサービスを生み出そうとしている人たちに向けたある講演で、とても興味深いことを言っていました。
ここからしばらく、マーケティングの話にお付き合いください。
「誰からも好かれる」の意外な落とし穴
日々、とくにビジネスの場面において、わたしたちがよく聞かされる言葉。 「もっと!」「もっともっと!」
もっと売上を、もっと広告を、もっとメール配信を、もっと顧客を。
彼はそうして「もっと多くの人に」を掲げて商品やサービスを「誰からも好かれる」ものにしようとしてしまうマスマーケティングの傾向を取り上げ、それでは本末転倒だと指摘しています。
なぜ、「誰からも好かれる」ものにしようとしてはいけないのか?
それは、全員をターゲットにしようとすると、少しずつ、少しずつ「特別」をなくして「平均的な」「普通な」ものにしていかなければならなくなるから。
そういった妥協を積み重ねた結果、その商品には何が起こるか?
まず、他の商品とよく似たものになり、そのうち、ほとんど違いのないものになってしまう。
ほとんど違いがないものになった結果、どうなるか?
たいした特徴も魅力も違いもないのなら、あとはオンラインショップでわたしたちがよくやるように、「価格順」に並べられ、比較されるだけ。
そして安いものから順に買われていくのです。
普通になった結果、価格だけをもって比較されるようになる。彼は、「価格順にソートされるようになったら、もうそこに勝機はない」と言っています。
そうならないためにすべきことは、
価格順に並べて比較しようなんて誰も思わないほどに、その商品やサービスを、特別なものにすること。
特別なものを作るにはどうしたらいいのか?
そこで彼は、「変な人を狙え!」というのです。
ん?
どういうことか説明しましょう。
端っこにいる、変な人たちを狙う
彼は、「あらゆることに関して、人を分類してその人数分布をグラフに表すと、必ずといって良いほどきれいな山形に表される」と言っています。
例えばスマートフォンの最新機種への関心度について。
会場の観客にインタビューをして、
- 発売後すぐに最新機種に買い替えた「関心度の高い人」
- 数年以内に買い替えた「そこそこ関心のある人」
- 最近までガラケーを使っていた「関心度の低い人」
この1~3のグループの人数を、左から順に並べてグラフを描きました。
最も多いのは2.で、例えば2年~8年以内に買い換えた人たち。なんと観客の3分の2を占めます。彼は非常にざっくりとしかインタビューしなかったため、いつ買った人がピークかは分かりませんが、この中のどこかをピークに、グラフの真ん中あたりは大きな山形を描きます。
グラフの左側、関心度の高い1.に属するのは、例えばappleが発表してから半年以内にその最新のiPhoneを購入した人たち。ざっと数十人はいるであろう観客の中に、たった2~3人しかいません。よって人数が少ないので、グラフは中央から左端に向かうにつれて低くなっていきます。
グラフの右端はどうでしょう。3.にあたるのは、例えば、ここ1年半以内に人生で初めてスマホを購入した人たちで、会場には1~2人しかいないようです。よってグラフは、中央から右端に向かうにつれて、低くなります。
つまり、すごく関心のある人がちょっといて、
そこそこ関心のあるひとや、「どちらかといえば無関心ではない」程度の人がたくさんいて、
時代から何年も遅れたって気にならないくらいに無関心な人がちょっといる、ということ。
Sethによると、スマホに限らずあらゆることに関してこれと同じ傾向が当てはまるそうです。
そして魅力的な商品やサービスを生み出して成功させるためには、
この山の中から、人数が多くて一見有望そうに見える、山の高い部分にいる人たちをターゲットにするのではなく、
左の端っこにいる、新作をいち早く買った人たちを狙いにいくんだ!と彼は言います。
その人が「大好きなもの」にだけ持つ、情熱とモチベーション
この「端っこにいる人たち」は、人数は少ないかもしれない。でも、何よりその分野についてとても強い関心を持っていて、情熱や、愛情すら持っている。
この人たちのことを彼は、親しみを込めて「変な人たち」”weird people”と呼んでいます。
なぜなら彼自身も、対象によっては山の端っこにいる「変な人」になるから。
例えばSethの場合、腰に巻く「ベルト」については、彼は山の高いところにいます。「身に付けることさえできれば、まあなんでもいい」のだとか。
でも、ハイテクなガジェットのことになると話は別。彼は常に最新技術を使った、一番かっこいい電子機器を手に入れようとしている。つまり、山の左の端っこにいる「変な人」になるのだとか。
そして端っこにいる人にものを売りたいなら、「叫ばなくても、ささやけば買ってくれる」のだそう。だって彼らは、自ら探しに行ってしまうくらい その分野に強い関心を持っているのだから。
だから、「端っこにいる、変な人を狙え!」。
そして、そうして強い関心を寄せてくれる その人たちを喜ばせるために、あなたにしか作れない「特別なもの」を作れと言います。
本当にそれで、上手くいくの?と思った人のために。
この「端にいる人たち」を狙った結果ヒットした商品やサービスには、実はこんなものがあります。
- Kindle
- Uber
- Airbnb
- TED
今やそれこそ山の真ん中にいる人たちも利用していたり、無関心な側、つまりグラフの右端にいる人でもなんとなく知っていたりするくらいに普及した商品たちですが、これらも最初は「端っこにいる変な人たち」をターゲットに作られたものなのだそう。
一握りの人に愛される
誰にでも好かれようとして普通になってしまえば、価値が下がってしまう。
普通になんてならなくていいから、特別であることを大切にして、
一握りの人に愛されることを目指す。
これって、商品だけじゃなくて、人間性にも置き換えることができるのじゃないか?と思うのです。
一見、「商品やサービスをヒットさせるためのマーケティングと人間性を重ねて考えるなんて、けしからん!」と思われるかもしれません。
でも、出る杭にならないように
あの人にも嫌われずに、かといってこの人にも認めてもらえるように、
と立ち振る舞った結果、いつのまにかあなたの色が薄れ、あなた独特の形がどんどん丸くなっていってしまい、
その結果、あれ?わたしは本当にこれでよかったんだっけ?
となってしまうことと
もっと多くの人をターゲットに!と妥協を繰り返し続けた結果、誰からも求められない、「まあどれでもいいけど、安いならこれ選んどくか」と言われるようになってしまった物たちと
その間に、なんだか共通点を感じずにはいられません。
そして、端っこにいる変な人たち。
彼らがそこにいるのは、人一倍それに関心を持っているから。それが大好きだから。だから、「自ら選んで」そこにいるのです。
わたしたちだって、
「別にこれといった理由はないけど、近くにいたからあなたと一緒にいるね」という人よりも
「あなたが好きだから一緒にいたい」
と言ってくれる人とこそ、一緒にいたいと願うものじゃないでしょうか。
だから、「あの人にもこの人にも」と自分を丸め込んでしまうのではなくて
自分の
多少 人と違うなあと思う部分
ちょっと変わってるかもなあと思う部分
人になんて言われるか分からないけど、諦めたくないんだよなあと思う目標
そんなものを大事にした方が、結果的に本当に大切に思ってくれる人たちと 出会えることになるのではないかなあと
わたしは思うのです。
そりゃ自然にしていて誰からも好かれたらいいなあと、私だって思いますし、そんな人には憧れます。
それにもういい大人だから、ある程度多くの人と上手くやらないといけないし、そうしようと日々頑張っている、その努力がいらなくなるとは言いません。
でも、他人の好みに寄せすぎる必要はないし
合わない人がいたって、あまり落ち込まなくても良いよと
そう思うのです。
平坦で普通、ではない
だから、あまり好きになってくれない人もいる。
でも、だからこそたまに
大好き!と思ってくれる人がいる。
そんな人との繋がりをより深く、大切にしていけたらいいんじゃないでしょうか。
最後に
わたしの大好きな友達がある時SNSに投稿していて、それを見てからずっと大切にしている言葉があります。
You’re not for everyone, and that’s okay.
「あなたは全員のための存在じゃない。それに、それで良い。」
誰からも好かれようとして、せっかくあなたの持っている特徴を隠して
いつのまにか失って、つまらなくなってしまうより
でこぼこの自分と、そんな自分を好きでいてくれる人のことを
これからも胸を張って大切にしていきたいなと、わたしは思います。
- この記事の元になったSethの情熱的でユーモアに溢れた講演は、こちら。
“Your Job is to Make Art – Seth Godin at Craft & Commerce 2017”
- Sethが毎日欠かさず更新している(すごすぎます!)ブログはこちら。
https://seths.blog/