
自分には何もないと思っている人。
自分には何か足りないと思っている人。
わたしはあなたのことを何も知らないかもしれないけれど、それでも、「それは違う」と言いたいです。
わたしは、「何もない人」なんていないと割と本気で思っているのです。
人が本当に「何もない人」になってしまうことがあるとすれば、それは自分が「自分には何もない」と思い、そう信じて、信じた通りに行動しているうちにそれが現実になってしまったときだと思います。
簡単に言ってしまえば、何もない人とは、「自分で自分を諦めてしまった人」のこと。
何か足りないと思っているなら、それは自分のことをそういう風に見ようと自分が決めてしまっているから、そう思うのです。
「いやいや、そんなきれいごとを言って」と思われるかもしれません。だから今日は、わたしがこう信じている理由、証拠とも言えるかもしれないものを紹介します。
Netflixのオリジナル・ドキュメンタリー番組『クィア・アイ』(原題:”Queer Eye”)。
この番組は、ファブ・ファイブと呼ばれる5人のゲイ男性が、自分を諦めてしまった一般人を素敵に変身させていく番組です。
とはいっても、冴えない人の見た目をファッションやメイクで変身させるだけの、よくある表面的な番組とは全く別物です。
ファブ・ファイブは、一人ひとりがそれぞれの分野におけるスペシャリスト。見た目だけじゃなく人が生活する上で大切な5つの観点から、番組に登場する1人1人を、理解し、どんな変化が必要か考え、提案していきます。
- Jonathan (ジョナサン):美容担当
- Tan (タン):ファッション担当
- Bobby (ボビー):インテリア担当
- Antoni (アントニ):食事とワイン担当
- Karamo (カラモ):カルチャー担当
ここで特に鍵を握っていると思うのが、「カルチャー」担当のカラモ。英語でも”Culture”担当と表現されているのですが、一体何をするのか少し分かりにくいと思います。
他の4人が担当するのは、目に見えるもの。それに対しカラモは、「人の心」という目に見えないものを担当します。
その人との対話を通し、悩みや抱えている問題、秘めた願望、過去と現在、目指したい未来などについて、時間をかけて理解した上で、その人が壁を乗り越えるきっかけを与えるために毎回色々な工夫を凝らす人です。
必要とあらば一緒にジムに行ったり、楽器を練習してみたり、対立していた人に会いに行かせたり。
そして彼らが凄いのは、そうやって心の変化に寄り添うのがカラモだけではなく、目に見えるテーマを担当する他の4人も、その人の成長にとって必要なものを理解し、それを目に見える形で表現しているところ。
彼らが起こす「大変身」は、彼らに選んでもらった服やヘアスタイル、メイクを身にまとっているその1日限りのものではありません。
彼らが目指すのは、忙しい、自信がない、寂しい、悲しい経験をした、仕事や他人を優先させ続けてずっと自分を後回しにしてきた…などの様々な理由から、いつのまにか自分を諦めてしまった人たちが、彼らとの出会いをきっかけに再び自分を信じ、大切にできるようになることを目指しています。
あくまで彼らが去ったあと、その人が日常生活に戻った後の幸せを目指しているのです。
さて、番組紹介はこの辺にして、なぜ「何もない人などいない」のかという理由を、クィア・アイが教えてくれることと合わせて説明していきたいと思います。
- 誰にでも絶対に素敵なところがある
誰もが必ず、一目見るだけでは分からないかもしれないけれど、魅力を持っているはずだから。
もしこれを読んで「自分にはそんなものはないよ」と思うなら、それはあなた自身がそれに気付いていないから。そしてあなたの周りに人の良さを見つけるのが得意な人がいないから。それだけです。
ファブ・ファイブは人の良さを見抜く天才です。
大変身のターゲットに選ばれてクィア・アイに出演する一般の人たちには、正直、わたしでは良さに気付けなさそうな人もいます。
いつまでも子供のような生活に逃げている大人、すっかり気力がなく友達もいない若者、身なりも性格もだらしない家族、おしゃれも恋も忘れてしまった仕事人間など。
それなのに、ファブ・ファイブは出会った瞬間から、そして対話を通して、その人の魅力にどんどん気付いて言葉にしていきます。
本人が気付いていない、もしくは忘れてしまった魅力、例えば優しさや人を思いやる気持ち、何かをやり遂げる意志の強さ…といった性格面から、実は目が綺麗、髪が美しい、輪郭が素敵…などといった容姿の面まで。
そしてその良さを見つけた瞬間、まるで自分のことのように、まるでその長所を称えてお祝いするかのように、本人と一緒になって全力で喜ぶ。そんな彼らの姿を見ていると、人間って実はこんなに美しくて、温かいものなんだという気持ちが湧きあがってきます。
彼らの「人を肯定するパワー」は物凄くパワフルなので、良さを指摘された出演者は「そんなことないよ」なんて初めは言っていても、ファブ・ファイブのあまりの説得力に次第にそれを認め始め、表情が明るくなっていきます。
そして画面越しにその様子を見ている人までもが、いつの間にか「そういえば自分にも、こんなところがあったよなあ」だとか、「ファブ・ファイブはきっとわたしの良いところも見つけてくれるんだろうなあ」だとか、そんな前向きな気持ちにさせられているのです。
- 隠れた願望は、その人の魅力の始まり
「クィア・アイ」は一見、何の変哲もない人に、突然現れたファブ・ファイブが華やかなご褒美を与えて帰って行く番組のように見えるかもしれません。
しかし彼らがやっているのは、その人が持っていなかった全く新しいものを与えることではないのです。
そのまるでご褒美のような「新しい自分」は、実は全て本人から出てきたものなのです。彼らの力を借りて、意識の底から目に見える形へと浮かび上がってきただけ。
ファブ・ファイブは、「今はこうだけど、自分には無理だけど、本当はこうなれたらいいのに」と人が心の中で思っている -ときには思っていることに本人が気づいていない場合もありますが- ことを、引き出し、髪型や服装を通して目に見える形に表しているのです。
そしてその「新しい、なりたかった自分」としての新生活を支える舞台として、インテリアや、その人のライフスタイルにあった料理のレシピを提案する。
その上で対話を通して本人にその「変えたかった過去の自分」と「なりたかった自分」を自覚させ、「あなたには出来るよ!」と伝えて帰っていくのです。
- 自信を持つだけで人は魅力的になる
そしてファブ・ファイブと一緒に「新しい自分」へと変身していく過程を通して、人は本当に変わっていきます。
タンが選んだ服を着て、ジョナサンに髪型を変えてもらい、髭の形を変えたりメイクをして貰ったりすると、みんな全く別人みたいに見えるのです。
「え、この人、こんなに綺麗だったっけ!」「こんなにイケメンだったっけ?」「こんなにセクシーだったっけ?」と、毎回びっくりします。
人が本来持つ美しい部分を活かし、際立たせる彼らの高い技術には脱帽です。
でも、それだけじゃないんですよね。そうやってファブ・ファイブに1週間かけて変身させてもらう過程を通して、人の顔つきも振る舞いもどんどん変わっていく。姿勢が変わり、発言が変わり、行動が変わり始めるんです。
ファブ・ファイブとの関わりを通して自分のことを改めて見つめ直し、理解し、自信を付け始めると、誰もがまるで全く違う人に見えはじめます。でも、その人なんです。みんなきっと、自分を信じて愛するきっかけが足りなかっただけ。
(この下の女性の写真は是非左右にスワイプしてBefore&Afterを見て下さいね。)
- 絶対に味方はいる
そしてどんな人にも、その変身を一緒に心から祝福してくれる人がいる。
本人がどんなに「自分は孤独な人間だ」と言っていても、ファブ・ファイブは必ず彼らのことを気にかけている人を探してきます。
家族や友達、恋人、同僚、ときには近所の人など、関係性は色々ですが、誰にだってその人の幸せを心から一緒になって喜んでくれる人はいるのです。
決して「特別な人」には見えなかった人の、これまでの過去、ファブ・ファイブとの1週間のうちに起こる出来事や気付き、そしてこれから始まる新しい生活。そこに関わる大切な人たち。それを目撃していくうちに、今の自分を取り巻く環境や、自分自身だって、捨てたもんじゃないなと気付くはずです。
私の言葉で足りなければ、是非番組を見てみて下さい。こんなに、「人」って、美しいんだと思います。
芸能人でもなければ、道を歩けば誰もが振り返るほどの美貌の持ち主でもない。でもアメリカの片隅で暮らす一人の人を、よく見て、話を聞いて、本当に願うことを引き出していくと、こんなにも美しい人だったんだと気付くことになる。
それなら、あなたにも、「何か」絶対にあると思いませんか?
ファブ・ファイブが会いに来てくれなくても、自分と向き合い、自分を信じることは今からでも始められます。だから最後に、彼らの言葉をいくつか紹介したいと思います。
“Failure is not the opposite of success, it’s part of it.” – Karamo
失敗は成功の反対じゃない。失敗は、成功の一部だ。- カラモ
“How you take care of yourself is how the world sees you.” – Jonathan
自分が自分をどんな風に扱うか。それは、世界があなたをどんな風に見るか。- ジョナサン
“Every day I make sure my hair is done, I make sure I’m showered, I make sure I’m shaved. I want may partner to look at me and think I respect them enough to make an effort for them.” -Tan
毎日絶対に髪を整え、シャワーを浴びて、髭を剃る。だってパートナーが僕を見たときに、こうして努力を怠らないほど僕が彼を尊敬していると分かってほしいから。- タン
“Present the best version of yourself, then be honest with other people. Stories don’t last. Only dedication, hard work, and responsibility. That’s what takes you far.” – Bobby
ベストな自分になって、他の人に正直になること。作り話は長続きしない。本当にあなたが行きたいところへ連れて行ってくれるのは、懸命さと、努力と、責任感だけ。- ボビー
“Beauty is believing in yourself. It’s knowing you’re worth it.” – Karamo
美しさとは、自分を信じること。「自分にはその価値がある」と理解すること。- カラモ
“Beauty is when you’re connected with your own heart, you don’t need to explain anything to anyone, because you already know that you’re beautiful just the way you are.” – Jonathan
美しさとは、自分自身の心と繋がって、「ありのままの自分が美しい」ことを知り、他の誰にも説明する必要のなくなった状態のこと。- ジョナサン
そしてなんと、クィア・アイの日本編が11月からNetflixで配信開始されるそうです!「みんなと同じ」が良しとされる空気がなかなか根強い日本で、ファブ・ファイブはどんな人に会い、大変身させたのでしょう?今から楽しみで仕方ありません!
そしてこのブログを書いている途中で、ファブ・ファイブのメンバーであるジョナサン・ヴァン・ネスが9/24に発売した回想録『Over the Top』の中で、HIV陽性であることを公表したと知りました。
トランプ政権のLGBTコミュニティに対する不当な扱いが止まぬ中、『クィア・アイ』では見せてこなかった自身の過去や苦悩をあえて発表することで、人々を助けたいというジョナサン。
出会う人の魅力にいち早く気付いて思いやりを持って接する優しい彼の活躍を、これからも応援していきたいです。