
よく、「春は出会いと別れの季節」と言いますが、大人になると、カレンダーの節目にとらわれず自分で選択して行動しやすくなる分、思いがけないタイミングで出会いも別れもやってくるようになります。
今日はその「別れ」について。
仕事、結婚、なんらかの挑戦、冒険、もしくはリラックスするために。色んな理由で私たちは、ときに大切な人と遠く離れることになります。
家族、友達、恋人、大切な人とはずっと一緒にいたいと思う半面、わたしたちは一人ひとりそれぞれの人生を生きているから、もちろん一緒にいられない時間はあるし、遠く離れなければならないときもやってくるものです。
よく、世間は狭いとか、It’s a small worldとか言われるし、確かにそう思います。意外な人同士が繋がっていたり、知り合ったばかりの人との間に実は共通の友人が沢山いたり、世界の裏側に友人がいることだって、決して珍しくない今日この頃。
でも、いざ大切な人と物理的に離れ離れになって、駆けつけようにも何時間、何十時間もかかるなんて状況になったときに、やっぱり改めて実感する。
「遠いなあ」
もし会いたい人が国境を越えた遥かかなたにいようものなら、多くの人にとっては会いに行くことだけでもちょっとした壮大なプロジェクトです。航空券はいつだって高い。移動だけで丸1日、時差も考えれば2日要することもある。お金はあっても、まとまった休みがとれない。まとまった休みが取れる状況にするのは、たとえば日本で会社員をやっている人にとってはほとんど不可能なことだったり、とてつもなく勇気のいることだったりする。そしてこれまで何度こう言ったことか、数え切れません。
「誰かどこでもドア作ってくれないかなあ」
テクノロジーの発達や、グローバル化の流れで、世界がまるで小さくなったかのように感じられることは、きっと昔に比べて増えたと思います。それでもやっぱり、誰かに「今、この瞬間」会いたくなったとき、私たちの力ではどうにもできないくらいに、地球はとてつもなく大きいのだということを痛感せざるを得ません。なんだ、まだまだ世界は小さくないじゃないか、と切なくなります。
でも、こんな風に考えることもできるかも。
確かに物理的に地球を小さくすることはできないし、そんなことをしたら住む場所と自然と気候と資源と、、、とにかく色々なバランスが取れなくなってきっと沢山の問題が起こるでしょう。
新幹線や飛行機のおかげで、移動時間が短くなったという意味では、世界は昔より圧倒的に小さくなったと思います。それにはとっても感謝しているけれど、やっぱりどこでもドアがない限り、限界があるのが現状です。
それでも、私たちの心の中にある世界は、小さくすることが出来るのではないか と思うのです。
たとえば、あなたの行ったことのない土地。こんな国があって、こんな町があって、そこではこんな人たちがこんな暮らしをしているんですよという話を聞いたって、そこは「知らない土地」のまま。だけど、もしあなたの大好きな友達がそこに移り住むことになったとしたら?
あなたはきっと、その友達がその町で、どんな人に会って、どんな風に生活しているのかなあと想像するでしょう。どんな気候で、何が美味しくて、空気はどんな匂いがするだろうとか。そして、まだ行ったこともないくせに、その町のことを少し身近に感じ始める。そこの生活はきっとこんなじゃないかな、とか思ってみたり、テレビでふとその地名を見かけたら、その人を想像しながらつい見入ってしまったりするかもしれません。
他にもこんな例があります。
今年、日本は本当に多くの災害に襲われました。私は今神戸に住んでいるけれど、大阪が震源だった大きな地震のときも、関西を襲った台風のときも、幸い直接的な被害はありませんでした。それでも、災害のニュースを見るたび、今年は特に胸を締め付けられる思いでした。
日本に住んでいると、幼いころから地震や台風や異常気象で災害のニュースは度々目にしてきたけれど、私が幼くてまだ家族と親戚と、学校で会う友達や先生、ご近所さんたちしか知らなかった頃は、確かに悲しくて酷い話だと思ってニュースを見ていたものの、こんなに実際に胸が痛むことはなかったと記憶しています。
大人になって、事の深刻さをより想像できるようになったのもあるとは思うけれど、身近な地域が台風や地震に苦しみ、故郷である岡山が豪雨に襲われた今年、ニュースを見ながら気付いたことがありました。
遠く離れた土地で起こっていることでも、そこに誰か知っている人がいると、その人のことを思うから、より自分のことのように感じるようになるのかもしれない、と。
大切な誰かが遠くへ行くことで、たとえ自分は一度もそこへ行ったことがなくても、それまでは「知らない土地」として心の外側にあったはずの世界が、あなたの心の中に存在し始める。のかもしれません。
今まで気にしていなかった世界のことが、大切な誰かがそこにいるという事実によって、突然大切な世界に変わる。
確かに好きな人が日本中のあちこちに、もしくは世界中のあちこちに散らばっていくと、「会いたいなあ」と思った瞬間に会えないことで 寂しく感じることもあるかもしれない。「もう会えないかもしれない」と思う人だって、中にはいるでしょう。
でも、その人のことを思い、その人が今生きる世界があなたの心の中に存在するようになったことで、心の中の世界は小さくなっている。そうやって大切な人が色んな場所に増えていくことで、自分からは遠い土地のことを少しでも大切に思い、気にかけ、幸せであるように願うようになる。
一人の心の中でそうして世界が小さくなって、他にも色んな人の心のなかでそうやってそれぞれ世界が小さくなっていけば、なんだが、いいことが起こりそうな気がしてきました。
個人が気にかける相手がもし、その人の大切な人だけに限られていたとしても、それが広がって重なり合っていくことで、遠く離れた自分とは関係のない誰かのことも、いつの間にか自分の心の中の世界に入ってきて、大切にしたいと思えるようになる。そんな優しい気持ちが広がっていけばいいなと、私は思います。
物理的な距離はどうすることもできないけれど、私の心の中で、世界は確実に小さくなっていくから。きっと遠く離れることだって、寂しくて不安なことではなくて、明るい未来に繋がっている。そうどこかで信じていきたいな、と思います。